カット工場 始2

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「ラジオ体操しまーす」
いつものように適当に準備する従業員。
体操の後、工場長が派遣バイトを紹介した。
「えー、今日から暫く派遣バイトさんに入ってもらいます。学生の明君と、それからえー、影野君。じゃ明君から挨拶して」
「はい!みなさんおはようございます。今日からお世話になります 明光(あけ ひかる)です!卒業旅行資金のために頑張ります、宜しくお願いします!」
「元気な挨拶ありがとう、次は影野君」
影野君はちょこんとお辞儀してから、小さな声で
「影野です、宜しくお願いします」
後ろにいた人は何も聞こえなかった。

明光は最初、パートのおばさんに教えてもらう事になった。
「明光君?」
「はい!」
「何だか希望と積極性感じる名前ね!」
「はい、よく言われます」
「じゃ明君ね、玉葱をこうやって芯取って、皮をこうやって剥くの、いい?やってみて」
「はい、芯をこうやって、それから皮を…出来ました!」
「あら上手!これをひたすらやるの」
「わかりました」
「明君彼女は?手止めないでね」
「は、はい。いきなりですか?いません」
「そうなの?若くてイケメンなのに?」
「私立候補しようかしら!」
「あなた旦那さんいるでしょ」
「あれは旦那じゃなくて空気!」
「笑笑笑」
「すいません」
「何?」
「その…明君て…」
「ごめん名前間違えてた?」
「いえ!合ってますけど…苗字で呼ばれた事ないんで何か…」
「じゃ光君?」
「出来れば呼び捨てで…」
「光?」
「はい、それで!」
「何だか息子か彼氏呼んでるみたいね」
「あつかましいわね、彼氏じゃないでしょ!」
「笑笑笑笑笑」
「じゃ光、ある程度剥いたらこの中に入れて」
「はい!」
「何か本当に彼氏と料理してるみたい!」
「違うから!」
「笑笑笑笑笑」
「もう1人は一緒の友達?声小さくて聞こえなかった、はげとか何とか聞こえたけど」
「ハゲって名前いないでしょ」
「笑笑笑笑笑」
「影野って言ってました。僕もここで初めて会った人です。影野一人(かげのかずと)さんです」
「何だか光とは対照的な名前ね」
「誰についたの?」
「涼さんよ、ほら」

「ここは難しい仕事1つもないから」
影野は小さな声で
「はい」
(声小っさ!俺もあっちの方が良かったな…明光だっけ)
涼さんは大笑いして楽しそうにしてるパートさんや明光のヤードを羨ましそうに見た。

 

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カット工場 始1

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「ラジオ体操しまーす」
漆沢課長の号令で従業員がいつものように適当に準備する。
従業員と言っても、正社員は工場長と漆沢課長の2人だけで、あとは地元のパートと、派遣バイトでシフトをやりくりしてる。
体操が終わると、工場長が当たり障りない挨拶をして業務に取り掛かる。

「涼さん!」
「おっ?」
「昨日のドラマ見ましたか?」
「泣いた…」
「えっ?泣くシーン1個もなかったですよ」
「まだまだだなテツは」
「ほれ!涼とテツ!無駄口叩いてないでさっさと人参はこんで。もうあんたらが、朝のスタートグズグズしてるからいつも夕方忙しくなるんだよ!」
(トメばぁ!)
「トメさん、俺は後半伸びるタイプなんだよ!」
(伸びてないっすよ)

ここは地方都市のかなり郊外、はっきり言って山のほとりの田舎。
この工場は野菜を仕入れてカット加工して、スーパーや大口の顧客に卸している。
同じ業種のライバルが近くにいないため、競争や足の引っ張り合いはない分、職場はモチベーションがやや欠けている。
そんな中でも、トメばぁこと梅溜トメ子は契約社員にも関わらず、1番の古株で大ベテラン。
日々の業務を円滑に回してるのは、工場長でも漆沢課長でもなく、このトメばぁである。
涼さんこと西神田涼一も契約社員だが、トメばぁほどのやる気は持ち合わせておらず、まあいろいろと理由はあるのだが、今はバイトのテツと良いコンビを組んでいる。
パートはほとんどがおばさんで、ここの職場の独自ルールが、手さえ動かしていれば私語は自由らしい。
どちらが効率的か実験した結果だというが、どうもおばさん達が結託してそちらの結果になるよう操作したみたいだが、工場長の許可がおりた。
「テレビでイケメン見た後に隣にいるじゃがいもみたいな旦那の顔みると」
「笑笑笑笑笑」
「うちは旦那の方が思ってるかも。テレビで綺麗な女優見た後に、お風呂上がりのノーメイクの私見て」
「笑笑笑笑笑」
「あなたはまだ綺麗だからいいわよ!私なんかバッチリメイクでも引かれる。お前ペンキ屋かって」
「笑笑笑笑笑」
「仕方ないわよね、土台がこれだから」
こんな職場で大丈夫なのだろうか?
「それに引換え亜弓さんは綺麗で羨ましいわ」
「いえ、笑 そんな」
「私らはバッチリメイクでもこの程度なのに、亜弓さんは薄いメイクでもこの美貌!やっぱり若さね」
「私も亜弓さんくらいの頃は…やっぱり土台が違うわ」
「笑笑笑笑笑」
「土台、土台」
やる気はイマイチだが明るさマックスの女性陣を遠巻きで呆れて見る涼さん。
しかし、呆れて見てる女性陣の中で密かに憧れてる人がいる。
勿論亜弓さんしかいない。
本人は隠してるつもりだが、職場の誰もが知ってる。
そして誰もが思っている。
どうせ叶わぬ恋だと。
バツイチで子持ちだが、30歳で綺麗な亜弓さんと、冴えない38歳の涼さんでは余りにも釣り合いがとれない。
それでも涼さんは想い続けている。
何の行動も起こさないまま。


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シャイな若者2-5

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「別に気にする事ない。喋りたくなかったら黙ってればいいんだから、自然体でいいよって、そんな感じでアドバイスしたわけよ」
「それで?」
「ちょっと冗談で、気になる看板娘でもいるのかい?って言ったらさ、違います違います!絶対違います!って全力で否定したんだよ。余りの勢いでびっくりしたけど…どうも図星だな」
「えーー!順一君に彼女!?どーしよー私」
「お前はどうもしなくていいよ 笑、まだそこまで話はいってないだろうし」
「順一君、恋してるんだ 素敵じゃなーい!」
「健全な若者の証だって言ってあげたよ」
「へ~順一君、完全に立ち直ったかな?」
「そう信じてるよ。死ぬ一歩手前でうちの順一が俺達に引き合わせてくれたんだ。早く立ち直ってくれないと、まあ焦る必要はないんだけど、順一に申し訳ない。俺達も順一君も」
「そうね、でも頑張ってるわよあの子。先日も私との電話でね、桜井ママのお弁当箱飾って、それ見て元気もらってるんだって!嬉しい事言うのよ。だから、弁当箱送りなさいって言ったら、駄目です!宝物だから無理ですって 笑、あの子お弁当箱を返せと言われと思ったんでしょ。違うのよ順一君、またお弁当詰めて送ってあげるのよって言った訳 笑、でも桜井ママにそこまで甘えられません。僕は空のお弁当箱で頑張れます、中身は空でも強力なおまじないが詰まってますからって 笑」
「頑張ってんだな、声も元気そうだったし」
「そう!私も思った。声に張りがあるっていうか…笑…ねえ、やっぱり順一君恋してるわよ!」

「いらっしゃいませ!」
「こ、こんばんは」
この時順一君は初めて“日替り定食下さい”以外の言葉を発した。
「! こんばんは、どうぞ 笑」
いつもシャイなお客さんが挨拶してきたのでびっくりした店員さんだが、すぐに笑顔で返した。

 

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シャイな若者2-4

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『突然ですが桜井パパは“行きつけの店”ってありますか?何て言うか常連みたいな所』
『どうしたんだ急に 笑』
『すみません…』
『笑笑、謝らなくていいよ 笑、行きつけの店かぁ…そうだな、しょっちゅう行く所はないかな。でも独身の頃はあったぞ、定食屋みたい店』
『あっ!そこ、そういう所って顔馴染みになったら店の人と話とかしたほうがいいんですか?』
『どういう事だい?』
『最初はリラックス出来て居心地のいい店だったんですけど、毎日行ってるのに一言も喋らないと、何だかちょっと窮屈な感じがして、僕人とのコミュニケーションが下手だから…』
『こうやってうちに電話して普通に喋ってるじゃないか 笑』
『桜井パパと桜井ママは特別です。命の恩人ですから』
『笑笑笑、順一君気にしなくても大丈夫だよ。私達の事も、行きつけの店も。話したくなかったら黙ってても構わないし、店の人も気にしないよ。仕事ならともかく、プライベートなら人様に迷惑かけなければ自由でいいんだよ』
『僕、そういうコミュニケーションから学習しないとダメですね』
『順一君、自然でいいんだよ。それとも気になる看板娘でもいるのかい?』
『ち、ち、違います!絶対違います!そんな事ありませんから』
『どうしたんだ順一君、急に焦って 笑 まぁ、それならそれで結構なんだよ。健全な若者の証だ』
『いや、だから!』
『笑笑笑順一君は健全な若者だよ』

健全な若者…僕が?…
桜井パパと桜井ママ、そして順一さんに命を救ってもらった僕だけど健全な若者になるにはまだ時間が必要かも…
順一さん、見守ってて下さい。

 

「順一君から電話あったの?」
「うん 笑」
「嬉しそうな顔して~笑」
「ああー、嬉しいさ 笑」
「私もお話ししたかったのにー」
「お前今風呂に入ってたからな」
「呼んでくれれば飛んで出て来たわよ」
「裸でか 笑」
「バカな事言わないの!何だって順一君」
「あのな順一君がな、桜井パパ、行きつけの店とかありますか?って聞くんだよ 笑」
「えー何?ああっ!そう言えばあの子、何か晩御飯は近くの定食屋さんに行き始めたとか言ってた」
「それでか!何でも顔馴染みなってから店員さんと話をすればいいのか、僕はコミュニケーションが苦手だからどうしていいのかよくわからないと」
「えー、そんな事で悩んでるの?」
「いや、たぶん違うと思う」
「何が?」
「別に気にする事ない。喋りたくなかったら黙ってればいいんだから、自然体でいいよって、そんな感じでアドバイスしたわけよ」
「それで?」
「ちょっと冗談で、気になる看板娘でもいるのかい?って言ったらさ、違います違います!絶対違います!って全力で否定したんだよ。余りの勢いでびっくりしたけど…どうも図星だな」

 

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シャイな若者2-3

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今日は日曜日だけど、あの定食屋に行ってみよう。
今まで日曜日に行った事はなかった。
もっとも僕はあの店に通い始めて三週間も過ぎてないが。
平日は毎日行ってるから、もしかしたら日曜日の今日は定休日かもしれない。
よく考えてみれば、僕はあの店に関して何の情報も得ていない事に気付いた。
店に着く。
今日は平日の来店時間よりも2時間早い。
それだけで店の雰囲気は随分違う。
でも雰囲気の違いは時間でなく曜日の可能性もある。
「いらっしゃいませ!」
「…」
また、どんな顔していいかわからず、軽く会釈して入る。
いつもの席が空いてたのでそこに座る。
カウンター席の一番端っこ、この店に限らずどんな店でも僕はつい端っこを選ぶ…性格なのだろう。
いつものように水が提供され
「いらっしゃいませ、何にしますか?」
「日替わり定食」
「すみません、日曜日は日替わりやってないんです」
「あっ、すいません。じゃ…サバ煮定食で」
「はい、サバ煮 1でーす」
少し恥ずかしくなってきた。
僕は改めてメニューをじっくりと見る。
確かに ※日曜日は日替わり定食はやってません と書いてある。

「ありがとうございました、毎度どうも」
やっぱり今日はいつもと違った。
平日いる店員さんの姿も見えなかった。
休みなのだろうか?早く帰ったのだろうか?

 

『桜井パパ?』
『おー!順一君 笑 こんばんは』
『こんばんは、すみません遅い時間に…』
『笑 まだ全然大丈夫だよ。それに順一君からの電話なら何時でもいいから、時間は気にすることないからね』
『ありがとうございます。あの桜井パパ』
『ん?どうした?』
『突然ですが桜井パパは“行きつけの店”ってありますか?何て言うか常連みたいな所』
『どうしたんだ急に 笑』
『すみません…』
『笑笑、謝らなくていいよ 笑、行きつけの店かぁ…そうだな、しょっちゅう行く所はないかな。でも独身の頃はあったぞ、定食屋みたい店』
『あっ!そこ、そういう所って顔馴染みになったら店の人と話とかしたほうがいいんですか?』

 

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シャイな若者2-2

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『お休みの日は?』
『ほとんどはDVDレンタルして見てます。今の場所では基本友達いませんから』
『淋しくないの?』
『元々友達は少ない方だったので別に淋しい気持ちはありません。それに僕は今土曜日も出勤してるんで日曜日だけですから』
『渋谷のハロウィンとか行ったの?』
『あんな恐ろしい場所無理です』
『笑 そうね、順一君には似合わないわ』
『でも、コンビニでハロウィンのグッズは買いました。まぁ、その程度です』
『今日はもう食べたの?』
『いえ、今から定食屋さんに行きます』
『そう?じゃあもう行きなさい、今度は桜井パパにも電話してあげて!いい歳して嫉妬するのよ 笑』
『笑 わかりました、今度は桜井パパに電話します』
『じゃいい?ちゃんと御飯食べなさいよ』
『はい、おやすみなさい』
『おやすみ順一君』

順一君はその足でいつもの定食屋さんに向かう。
「いらっしゃいませ!」
毎日来てるから向こうだって僕の顔は知ってるはず。
そんな時僕はどんな顔をすればいいんだろう。
笑顔がいいのか、無表情がいいのか。
日に日にこの店に対して気を使ってるのが感じられる。
でも気を使ってるのは、店にではないのかも知れない。
「いらっしゃいませ何にしますか?」
「日替わり定食下さい」
「はい、いつものですね」
「はい」
「日替わり1でーす!」
初めて言われた。
“いつもの”そりゃ客商売だから覚えるのは普通かも知れないけど、こんな僕の注文をちゃんと覚えてくれてる店員さん。
僕は明日どんな顔で店を訪れたらいいのか益々わからなくなってきた。
最初はリラックス出来る心地よい店だったのに、今は緊張感すら憶える。
でも僕は明日もこの店に通いたい。何故だろう。

それはある感情が順一君の中で芽生え始めていたのだが、順一君自身がそれを自覚するのはまだ先の話であった。


今日は日曜日だけど、あの定食屋に行ってみよう。
今まで日曜日に行った事はなかった。

 

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シャイな若者2-1

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『桜井ママ?順一です』
『はーい、順一君元気にしてる?』
『はい、桜井ママの弁当箱見て毎日頑張ってます 笑』
『安いわねぇ、空のお弁当箱見て元気が出るなんて』
『空と言ったって、強烈なおまじない付きですから 笑』
『それ、また送りなさい』
『いや!それだけは勘弁して下さい。宝物だから』
『違うわよ!またお弁当詰めて送ってあげるのよ』
『そんな、そんな!桜井ママにそこまで甘えられません。』
『違うんだよ順一君、私がそうしたいだけなの。親じゃないけど限りなく近い存在のつもりでいるんだから、迷惑?』
『笑 迷惑ならこうやって電話なんかしませんよ。僕も桜井ママは限りなくほんとの親に近いです』
『ありがたいけど順一君、実のお母様とも上手くいくような努力はしなさいよ』
『はい』
『順一君声に張りが出てきたように思うんだけど、どう?仕事とかは』
『最近は少しずつ仕事を任せられるようになって、忙しいです』
『そう!?仕事を頑張れるって素晴らしい事よ、でも無理しないでね、自分のペースでいいんだからね。御飯とかは?』
『朝はコンビニで、昼は会社でみんなでとってるお弁当で、夜はコンビニだったんですけど、最近近くに手頃な定食屋さん見つけて、通って毎日日替わり定食食べてます』
『じゃとりあえず昼と夜は心配なさそうね。朝はコンビニでもいいけど出来れば、ちゃんと食べなさいよ』
『はい』
『お休みの日は?』
『ほとんどはDVDレンタルして見てます。今の場所では基本友達いませんから』

 

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